特殊健康診断とは何?検査項目や企業が行うべき対応を徹底解説

特殊健康診断

特殊健康診断は、有害業務に従事する労働者・特定の物質を取り扱う労働者に対して行う健康診断のことです。

企業には、法律によって実施が義務づけられており、怠った場合は労働基準監督署からの指導が入ります。また、指導後に改善が見られない場合、50万円以下の罰金刑が科せられる可能性もあります。

特殊健康診断は、従業員の健康リスクを早期に発見し、安全な労働環境を維持するための大切な取り組みです。

当記事では、以下のことがわかります。

最後まで見れば、特殊健康診断の全体像とその後の対応策が理解でき、安全な職場環境の構築につながるでしょう。

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特殊健康診断とは:有害業務に従事する労働者への実施義務がある健康診断

特殊健康診断とは

特殊健康診断とは、法令で定められた有害業務に従事する労働者や、特定の物質を取り扱う労働者を対象とした健康診断です。

労働安全衛生法第66条第2項・第3項に基づき、定期的な実施が義務づけられています。

■ 特殊健康診断
労働安全衛生法第 66 条第 2、第 3 項に定められている健康診断及びじん肺法第3
条に定められている健康診断です。
労働衛生対策上、特に有害であるといわれている業務に従事する労働者を対象として実施する健康診断で、有害業務に起因する健康障害の状況を調べる健康診断です。

引用元:厚生労働省

特殊健康診断には、じん肺法第3条に定められた健康診断も含まれ、特に有害とされる業務を担う労働者の健康状態を確認するために行われます。

医師による特別な項目について、健康診断の実施が必須です。

また、一部の業務については、特定の物質を取り扱う業務から外れた労働者に対しても、雇用し続ける限りは定期的に特殊健康診断を受診させる必要があります。

特殊健康診断の種類は以下の通りです。

  • 高気圧業務健康診断
  • 放射線業務健康診断
  • 特定化学物質健康診断
  • 石綿健康診断
  • 鉛健康診断
  • 四アルキル鉛健康診断
  • 有機溶剤等健康診断
  • じん肺健康診断

次の資料は、厚生労働省が発表した特殊健康診断の受診者数・有所見率(引っかかった人の割合)です。

特殊健康診断 有所見率

引用元:厚生労働省

有所見率がもっとも高かったのは高気圧(14.3%)です。次いで、電離放射線(11.9%)、鉛(8.6%)の順番で、特殊健康診断に引っかかる人の割合が高いことがわかります。

特殊健康診断に関しては、受診者数に比例して有所見率が高くなるわけではありません。

以下では、特殊健康診断と一般健康診断の類似点・相違点を解説します。

最後まで見れば、特殊健康診断と一般健康診断の違いがわかり、自社が雇用する従業員へ適切に対応できるでしょう。

一般健康診断との類似点

特殊健康診断と一般健康診断は、どちらも労働者の健康状態を把握し、早期に健康障害を発見することが目的です。また、法令に基づき定期的に実施する点も共通しています。

一般健康診断の種類は以下の通りです。

  • 雇入時の健康診断
  • 定期健康診断
  • 特定業務従事者の健康診断
  • 海外派遣労働者の健康診断
  • 給食従業員の検便

一般健康診断は、血圧検査・尿検査・心電図検査などの一般的な健康状態を調べるために行われます。職種や業務内容に関係なくすべての労働者が対象です。

一般健康診断との相違点

特殊健康診断と一般健康診断の違いは、検査の対象となる労働者です。

特殊健康診断の場合、特定の業務に従事する労働者が受診の対象になります。一方、一般健康診断の対象者は、雇用しているすべての労働者※です。

また、特殊健康診断は6ヵ月に1回の頻度で実施しなければなりません。一般健康診断は一年に1回の実施が義務づけられています。

◎ 常時使用する全ての労働者に対し、1 年以内ごとに一回、健康診断の実施が必要です。
◎ 一定の有害な業務に従事する労働者に対しては、6 ヶ月以内ごとに一回、健康診断の実施が必要です。

(以下省略)

引用元:厚生労働省

※条件を満たすと、パート・アルバイトに対しても、健康診断の実施義務が生じます。詳しくは「企業には健康診断の実施義務がある」で解説しているのでご覧ください。

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特殊健康診断における種類別の検査項目・対象者

特殊健康診断 検査項目・対象

特殊健康診断における種類別の検査項目と対象者は以下の通りです。

種類検査項目対象者
高気圧業務健康診断・既往歴及び高気圧業務暦の調査
・関節、腰若しくは下肢の痛み、⽿鳴り等の
⾃覚症状又は他覚症状の有無の検査
・四肢の運動機能の検査
・そのほか
高気圧業務を行う労働者
放射線業務健康診断・被ばく歴の有無の調査及びその評価
・白⾎球数及び白⾎球百分率の検査
・⾚⾎球数の検査及び⾎⾊素量
又はヘマトクリット値の検査
・そのほか
放射線業務で管理区域に
立ち入る作業を行う労働者
特定化学物質健康診断■ベンジジン及びその塩を取り扱う場合
・⾎尿、頻尿、排尿痛等の他覚症状
又は⾃覚症状の有無の検査
・皮膚炎等の皮膚所⾒の有無の検査
・尿中の潜⾎検査
・そのほか
・特定化学物質のうち、第一類、第二類物質を
製造・取り扱う労働者
・製造等が禁止される有害物等を試験研究のために
製造・使用する労働者
・過去、従事させたことのある労働者
石綿健康診断・業務の経歴の調査
・石綿によるせき、たん、息切れ、胸痛等の
他覚症状又は⾃覚症状の既往歴の有無の検査
・せき、たん、息切れ、胸痛等の他覚症状
又は⾃覚症状の有無の検査
・そのほか
・石綿の製造・取リ扱いまたは粉じんを
発散する場所における業務を行う労働者
・過去、従事させたことのある労働者
鉛健康診断・業務の経歴の調査
・鉛による⾃覚症状又は他覚症状と
通常認められる症状の有無の検査
・⾎液中の鉛の量の検査※
・そのほか
鉛業務を行う労働者
※遠隔操作によって行う隔離室におけるものを除く
四アルキル鉛健康診断・業務の経歴の調査
・作業条件の簡易な調査
・四アルキル鉛によるいらいら、不眠、悪夢、⾷欲不振、
顔⾯蒼白、倦怠感、盗汗、頭痛、振顫、四肢の腱反射亢進、
悪心、嘔吐、腹痛、不安、興奮、記憶障害その他の神経障害
又は精神症状の⾃覚症状及び他覚症状の既往歴の有無の検査
・そのほか
四アルキル鉛業務を行う労働者
※遠隔操作によって行う隔離室におけるものを除く
有機溶剤等健康診断・業務の経歴の調査
・有機溶剤による健康障害の既往歴の有無の検査
・有機溶剤による⾃覚症状または
他覚症状と通常認められる症状の有無の検査
・そのほか
・第一種、第二種有機溶剤等を使い、
屋内作業場等で有機溶剤業務を行う労働者
・第三種有機溶剤等を使い、タンク等の内部
(通風の不十分な屋内作業場など)で
有機溶剤業務を行う労働者
じん肺健康診断・粉じん作業の職歴の調査
・胸部エックス線写真
・胸部臨床検査
・そのほか
・粉じん作業に従事する労働者
・過去に粉じん作業に従事させた労働者

引用元:労働安全衛生法第66条第2項、3項の政令で定める有害な業務について|厚生労働省
引用元:じん肺、じん肺健康診断、じん肺管理区分について|厚生労働省
引用元:愛知労働局

特殊健康診断は取り組んでいる業務内容によって、検診の種類・検査項目・対象者が異なります。「【最新版】特殊健康診断の対象者になる条件と基準とは?」でも詳しく解説しているのでご覧ください。

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特殊健康診断後に企業は何をすべき?結果に基づいて行うべき5つの対応策

特殊健康診断 対応策

特殊健康診断の結果に基づいて行うべき対応策は以下の5つです。

特殊健康診断後、企業は従業員の健康と安全を確保するために具体的な対応策を講じる必要があります。ここでは、特殊健康診断の結果に基づいて行うべき対応策を詳しく解説します。

最後まで見れば、従業員の健康を守るための対応策がわかり、より安全な職場環境の構築に向けて行動できるでしょう。

①就業場所・作業内容の変更

特殊健康診断の結果に応じて、従業員の健康状態に配慮した就業場所や作業内容の変更が必要です。例えば、健康状態に問題が見つかった場合、従業員をより安全な場所で勤務させることが求められます。

就業場所の変更によって特定のリスクを避け、従業員の健康を守ることが可能です。

また、従業員の適正に合った業務への転換も重要です。健康診断の結果を基に、適切な業務を見つけることで、従業員の働きやすさや生産性の向上が期待できます。

②労働時間の調整

特殊健康診断の結果、健康上の問題が発見された場合、企業は労働時間を調整しましょう。具体的な対応策は以下の通りです。

  • 労働時間の短縮
  • 残業時間の制限
  • 深夜残業の禁止
  • 出張の禁止

労働時間の調整によって、従業員の負担を軽減し、健康維持を図ることが可能です。また、従業員の健康保護だけでなく、企業のリスク管理にもつながります。

③作業環境の評価・改善

特殊健康診断の結果によっては、作業環境の評価と改善が必要です。以下の有害な因子がどのくらい存在し、従業員に影響を与えているのか評価・測定してください。

  • 有機溶剤
  • 鉛およびその化合物
  • 特定化学物質
  • 粉じん等
  • 電離放射線
  • 電磁波
  • 有害光線
  • 騒音
  • 振動
  • 高温
  • 低温
  • 高湿度等の物理的因子等

上記の因子を測定することを作業環境測定といいます。企業は作業環境測定を定期的に実施し、作業場の健康と安全性を確保しましょう。

問題が発見された場合、素早い対応によって、従業員の健康リスクを軽減できます。

④施設や設備の改善・新設

特殊健康診断の結果から見えてきた課題に対して、施設や設備の改善・新設が必要となる場合があります。

作業環境を改善するために新たな設備を導入したり、既存の設備をアップグレードしたりすることで、従業員の健康と安全を向上させましょう。

例えば、有害物質を取り扱う作業場において、換気システムの強化や、防護装置の設置が考えられます。施設や設備の改善・新設によって、従業員の健康リスクを低減し、安心して働ける環境の提供が可能です。

⑤専門家による健康指導の実施

特殊健康診断の結果を受けて、従業員には医師や保健師などの専門家による適切な健康指導を提供してください。

専門家の指導によって、従業員が自身の健康状態を理解し、必要な予防措置や生活習慣の改善を図れます。

健康指導は、健康リスクを早期に発見し、対策を講じるための重要なステップです。企業は専門家の助言を活用し、従業員が健康を維持できるようサポートしましょう。

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特殊健康診断の結果をすぐに破棄するのはNG?保存期間について解説

特殊健康診断 結果 保存期間

特殊健康診断の結果は、法律により、5~40年の保存が義務づけられています。特に長期保存が必要な健康診断結果は「特別管理物質の健康診断結果」と「石綿等の健康診断結果」です。

特別管理物質は業務に従事した日から30年保存し、その後も5年間の保存義務が生じます。石綿等の健康診断結果は、業務に従事しなくなった日から40年保存する必要があります。

特別管理物質の健康診断結果 (特定化学物質障害予防規則第 40 条、昭和 50.10.1 日付け基発第 573 号)
次の2つのルールによって保存期間を算定します。
① 業務に従事した日を起算日として、30年間保存する。
② ①の期間を過ぎた後も、5年間は保存する。

(一部省略)

石綿等の健康診断結果 (石綿障害予防規則第41条)
次のルールによって保存期間を算定します。
① 業務に従事しなくなった日を起算日として、40年間保存する。

引用元:厚生労働省

特殊健康診断の保存期間は、業務の内容によって異なるので注意しましょう。詳しくは「健康診断結果の保存期間」で解説しているので、ぜひご覧ください。

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特殊健康診断を実施しなかった場合の罰則

特殊健康診断 罰則

特殊健康診断を実施しなかった場合、労働安全衛生法に基づき、労働基準監督署からの指導が入ります。改善が見られない場合、最終的には50万円以下の罰金刑を科せられる可能性があります。

第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。(一部省略)

第六十六条第一項から第三項まで

引用元:労働安全衛生法

企業は法令を遵守して従業員の健康を守るために、特殊健康診断の実施が必須です。

過去には、労働基準監督署が健康診断を実施しなかった運送業者を大阪地検に送検した事例もあります。

大阪・岸和田労働基準監督署は、深夜業を含む業務に常時従事する労働者に対し6カ月以内ごとの健康診断を怠ったとして運送業者と当時の健康診断の責任者だった同社取締役を、労働安全衛生法第66条(健康診断)違反の疑いで大阪地検に書類送検した。

引用元:労働新聞社

経営者・人事担当者は、従業員の健康と企業の信頼を守るために、特殊健康診断の重要性を再確認しましょう。

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特殊健康診断に活用できる助成金・補助金

特殊健康診断 助成金・補助金

特殊健康診断に活用できる助成金・補助金は以下の通りです。

項目内容
一般財団法人 あんしん財団補助対象(特殊健康診断)に要した費用の2分の1を上限
※1,000円未満切り捨て
北海道上川郡新得町チェーンソー等を使用する林業関係等の作業に
従事されている方を対象に、振動障害特殊健康診断の費用の一部を助成
・助成金額1人あたり3000円
・助成回数1人につき1年度あたり1回

引用元:一般財団法人 あんしん財団
引用元:北海道上川郡新得町

上記のように、特殊健康診断の費用を補助する助成金・補助金を提供する団体や自治体があります。経営者・人事担当者は、自社が加入する団体や自治体が、特殊健康診断に関する助成金・補助金を提供していないか確認してください。

また、以下でも健康診断や健康経営に活用できる助成金を解説しているので、ぜひご覧ください。

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特殊健康診断に関する3つのよくある質問

特殊健康診断 よくある質問

特殊健康診断に関するよくある質問は以下の3つです。

特殊健康診断は主に8つの診断方法があります。ここでは、特殊健康診断の実施回数や費用負担についても詳しく解説します。

最後まで見れば、特殊健康診断に関する疑問が解決し、実施に向けて積極的に取り組めるでしょう。

特殊健康診断の具体例は?

特殊健康診断の具体例は以下の通りです。

  • 高気圧業務健康診断
  • 放射線業務健康診断
  • 特定化学物質健康診断
  • 石綿健康診断
  • 鉛健康診断
  • 四アルキル鉛健康診断
  • 有機溶剤等健康診断 
  • じん肺健康診断

自社がどの特殊健康診断に該当するのかは、取り扱う有害物質の種類によって異なります。詳細は厚生労働省のサイトをご覧ください。

特殊健康診断は何年に一回実施する?

特殊健康診断の実施は6ヵ月に1回です。つまり、一年に2回実施する必要があります。

ただし、特殊健康診断に該当する業務のうち、特定化学物質(特別管理物質等を除く)・鉛・四アルキル鉛・有機溶剤を扱う業務は、要件を満たすと一年に1回の実施に緩和できます。

有機溶剤、特定化学物質(特別管理物質等を除く。)、鉛、四アルキル鉛に関する特殊健康診断の実施頻度について、作業環境管理やばく露防止対策等が適切に実施されている場合には、事業者は、当該健康診断の実施頻度(通常は6月以内ごとに1回)を1年以内ごとに1回に緩和できることとする。

引用元:厚生労働省

詳細は厚生労働省のサイトをご覧ください。

特殊健康診断の費用は誰が負担する?

特殊健康診断の費用は会社が負担すべきものです。特殊健康診断を含め、健康診断の実施は、法律で企業に義務づけられているためです。

また、特殊健康診断を所定の労働時間以外で実施した場合は、割増賃金を支払う義務も生じるので注意しましょう。

一般の定期健康診断については、特に所定労働時間内に実施する義務はありません。もっとも、できるだけ労働者の便宜をはかり、所定労働時間内に行うほうが望ましいです。

なお、特殊健康診断については、所定労働時間内に行わなければならず、時間外などに実施すれば、その時間について割増賃金を支払う必要があります。

引用元:東京労働局

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まとめ:特殊健康診断の実施は義務!従業員の健康管理を怠らずに適切な対応を

特殊健康診断 まとめ

特殊健康診断の実施は法律で義務づけられており、従業員の健康を守るために不可欠な取り組みです。企業が適切に特殊健康診断を実施することで、従業員の健康リスクを早期に発見し、安全な労働環境が維持できます。

特殊健康診断後に企業がすべき5つの対応策をもう一度おさらいしましょう。

特殊健康診断を怠ると、労働基準監督署からの指導や罰金刑を受ける可能性があるため注意が必要です。法令遵守によって罰則を避け、企業の信頼を保ちましょう。

経営者・人事担当者は、従業員の健康と企業の信頼を守るために特殊健康診断の重要性を再確認し、確実に実施してください。