企業には健康診断の実施義務がある!対象者・罰則・費用について徹底解説

健康診断 義務

企業は事業規模に関係なく、健康診断の実施が義務づけられています。また、実施義務を怠った企業は50万円以下の罰金刑が科される可能性があります。

そのため、企業は法律に則った健康診断の実施が必要です。

本記事では、企業が法律違反となるリスクを低減するため、健康診断の対象者・罰則・費用について徹底的に解説します。

最後まで読めば、企業が負っている健康診断の義務内容が分かり、従業員へ適切に受診を促せるでしょう。

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【重要】健康診断は会社の義務!未実施は罰則の対象になる

健康診断 会社の義務

企業は労働安全衛生法に基づき、従業員へ健康診断を実施する義務を負っています。

(健康診断)

第六十六条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。 

引用元:労働安全衛生法

実施の義務を怠ると、労働安全衛生法第120条により、50万円以下の罰金を科される可能性があります。

第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。

第六十六条第一項から第三項まで

引用元:労働安全衛生法

さらに、健康診断の実施だけでなく、結果を適切に管理し、従業員の健康状態を把握することも企業の責任です。健康診断の結果を外部に漏洩した場合には、罰金刑だけでなく、6ヶ月以下の懲役が科される場合もあります。

(健康診断等に関する秘密の保持)

第百五条 第六十五条の二第一項及び第六十六条第一項から第四項までの規定による健康診断、第六十六条の八第一項、第六十六条の八の二第一項及び第六十六条の八の四第一項の規定による面接指導、第六十六条の十第一項の規定による検査又は同条第三項の規定による面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない。

第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

第百五条

引用元:労働安全衛生法

健康診断の実施率・受診率

厚生労働省の調査によると、定期健康診断の実施率は91.9%、受診率は81.5%です。

以下の資料では、企業の規模に比例して実施率・受診率・有所見者率(健康診断に引っかかる人)が、高くなることが分かります。

定期健康診断 実施率 受診率

引用元:厚生労働省

上記の資料から分かるように、健康診断を実施しない企業と受診しない従業員は少なからず存在します。企業に関しては、健康診断の未実施が罰則の対象となるため、必ず実施するように心がけましょう。

健康診断の受診率については「健康診断の受診率を上げる5つの戦略」の記事を参考にしてください。

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企業に義務づけられている健康診断の2つの種類

健康診断 義務 種類

企業に義務づけられている健康診断の種類は以下の2つです。

一般健康診断において、雇用期間中は年内に一回の実施が義務化されています。特殊健康診断は特定の業務内容に従事している労働者が受診の対象です。ここでは、2つの健康診断について詳しく解説します。

一般健康診断

一般健康診断は、職種に関係なくすべての労働者を対象とする健康診断です。一般健康診断の種類・対象者・実施時期は以下の通りです。

健康診断の種類 対象となる労働者  実施時期
一般健康診断雇入時の健康診断
(安衛則第43条) 
常時使用する労働者 雇入れの際 
定期健康診断
(安衛則第44条)
常時使用する労働者
(次項の特定業務従事者を除く) 
1年以内ごとに1回
特定業務従事者の健康診断
(安衛則第45条) 
労働安全衛生規則第13条第1項第2号(※1)
に掲げる業務に常時従事する労働者 
左記業務への配置替えの際、
6月以内ごとに1回
海外派遣労働者の健康診断
(安衛則第45条の2) 
海外に6ヶ月以上派遣する労働者 海外に6月以上派遣する際、
帰国後国内業務に就かせる際 
給食従業員の検便
(安衛則第47条) 
事業に附属する食堂または炊事場における
給食の業務に従事する労働者 
雇入れの際、配置替えの際 

引用元:厚生労働省

一般健康診断は、労働者の健康状態を把握し、早期に健康問題を発見できる手段の一つです。企業には一般健康診断を定期的に実施し、従業員の健康を守ることが求められています。

特殊健康診断

特殊健康診断は、法定の有害業務に従事する労働者を対象とした特別な健康診断です。具体的には、以下の業務が該当します。

高リスク業務一覧
  • 高気圧業務
  • 放射線業務
  • 特定化学物質業務
  • 石綿業務
  • 鉛業務
  • 四アルキル鉛業務
  • 有機溶剤業務

上記の業務は、労働者の健康に大きな影響を与えるため、健康診断の頻度は6ヶ月ごとに一回です。労働者の健康を守るため、法律で定められたタイミングでの実施を徹底する必要があります。

特殊健康診断については「【最新版】特殊健康診断の対象者になる条件と基準とは?流れや主な業務を徹底解説」で詳しく解説しているのでご覧ください。

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健康診断は全ての従業員に実施義務がある?対象者について解説

健康診断 義務 対象者

企業は正社員に対して健康診断を実施する義務があります。また、正社員の労働時間の3/4以上働くアルバイト・パート社員も、健康診断の実施対象となります。

パート労働者にも健康診断が必要? ~ 常時使用する労働者とは ~ 

パート、アルバイト等の雇用形態にかかわらず、下記①・②の両方を満たす場合には健康診断の実施が必要です。

① 1年以上の長さで雇用契約をしているか、または、雇用期間を全く定めていないか、 あるいは既に1年以上引き続いて雇用した実績があること。 

② 一週間あたりの労働時間数が通常の労働者の4分の3以上であること。

※ 上記の②にあたらない場合でも、①に該当し、同種の業務に従事する労働者の一週間の所定労働時間の概ね 2 分の 1 以上の労働時間数を有する者に対しても、健康診断を実施することが望ましいとされています。 

引用元:厚生労働省

企業と直接労働契約を締結しているかどうかも判断基準となります。派遣スタッフのように、他社と労働契約を結んでいる場合は対象外です。

役員については、労働者性のある役員は対象になりますが、事業主である代表取締役社長などは対象外です。

健康診断の対象者については以下の記事で詳しく解説しているのでご覧ください。

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健康診断の費用に関して企業が知っておくべき3つのこと

健康診断 費用

健康診断の費用に関して企業が知っておくべきことは以下の3つです。

ここでは、健康診断費用を負担する人や費用相場、福利厚生にするための条件について詳しく解説します。

原則として費用負担は企業側の義務

健康診断の費用は原則として企業が負担します。なぜなら、健康診断の実施は法律により企業側の義務として定められているからです。

労働安全衛生法等で事業者に義務付けられている健康診断の費用は、法により、事業者に健康診断の実施が義務付けられている以上、当然に事業者が負担すべきものとされています。

引用元:厚生労働省

ただし、従業員が希望するオプション検診の費用は自己負担となります。

健康診断の費用相場

健康診断の費用相場は、一般的に従業員一人あたり10,000円前後です。費用相場はクリニックや医療機関によって異なります。

検診用車両を手配するなど、受診形態や検査項目によっても変動します。

企業は、従業員の人数や健康診断の形態を考慮して、予算を適切に計画しましょう。

健康診断の相場については「従業員の健康診断の相場はいくら?コスト削減のコツや費用以外の重要なポイント」で詳しく解説しているのでご覧ください。

健康診断を福利厚生にするための要件

健康診断の費用を福利厚生として処理するためには、以下の4つの要件を満たす必要があります。

  • 従業員全員が健康診断を受ける体制を整える
  • 従業員の健康管理を目的として実施する
  • 健康診断費用が一般的な相場内に収まっている
  • 企業が医療機関に直接費用を支払う

福利厚生として処理するためには、従業員の健康管理を目的に実施する必要があります。また、費用が過剰に高額であったり、特定の役職のみに健康診断が実施されたりするような場合は、福利厚生費として処理できません。

また、従業員が受診料を一時的に立て替えるなど、後日支給する形態では、福利厚生費として処理できません。

健康診断を福利厚生として扱う方法やメリットについては「企業が実施する健康診断のメリットとは?福利厚生を通じた従業員の満足度向上とコスト削減」で詳しく解説しているのでご覧ください。

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実施して終わりじゃない?健康診断後に発生する企業の義務

健康診断後 企業の義務

健康診断を終えたあと、企業には以下の2つの義務が発生します。

  • 健康診断結果の保管義務
  • 健康診断結果の報告義務

「健康診断結果の保管義務」は従業員の健康診断結果を5年間保管する義務です。結果を保管することに対して従業員から承諾を得る必要があります。保管期間中は、個人情報の管理にも十分な注意が必要です。

(記録の保存)

第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。

引用元:労働基準法

「健康診断結果の報告義務」は、所轄の労働基準監督署へ報告する義務です。50人以上の従業員を雇用している企業が対象で、アルバイトやパートタイムの労働者の結果報告も含まれます。

(健康診断結果報告)

第五十二条 常時五十人以上の労働者を使用する事業者は、第四十四条又は第四十五条の健康診断(定期のものに限る。)を行つたときは、遅滞なく、定期健康診断結果報告書(様式第六号)を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

引用元:安全衛生情報センター

健康診断を実施する際には、上記2つの義務も忘れずに確認し、適切に対応しましょう。

健康診断後に発生する企業の義務については「健康診断の事後措置の流れを6つの手順で解説|事業者が知っておくべき義務とは」で詳しく解説しているのでご覧ください。

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実施義務がある健康診断を従業員に拒否されたら?対処法を解説

健康診断 拒否 対処法

従業員が健康診断を拒否した場合、以下の5つの対応・サポートで受診を促しましょう。

  • 健康診断を受けたくない理由を聞く
  • 健康診断のメリットを丁寧に説明する
  • 健康診断は法律で義務づけられていることを伝える
  • 懲戒処分になることを伝える
  • 健康診断の拒否について文書を書いてもらう

まずは従業員に未受診の理由を聞き、理解を示しましょう。その後、健康診断の重要性や法的義務を丁寧に説明し、積極的な受診への理解を促します。従業員が拒否を続ける場合は、懲戒処分を含めた法的な対処が検討できます。

しかし、最終手段としての懲戒処分に至る前に、対話や説得を重視し、従業員との信頼関係を損なわないように努めることが重要です。

健康診断を拒否する従業員への対応については「従業員に健康診断を受けたくないと言われたら?企業がすべき5つの対応策」で詳しく解説しているのでご覧ください。

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健康診断の義務に関する4つのよくある質問

健康診断 義務 よくある質問

健康診断の義務に関するよくある質問は以下の4つです。

法律により健康診断実施の義務が課されている経営者や人事・労務担当者は、最後まで読んで健康診断について理解を深めてください。

健康診断は強制?

健康診断の受診は従業員へ強制できません。なぜなら、健康診断の受診拒否について、法律で個人に対する罰則は定められていないからです。

また、従業員には「医師選択の自由」があるため、企業が指定した医療機関以外でも健康診断を受けられます。

労働安全衛生法は事業者が指定する医師以外の医師による健康診断を受ける「医師選択の自由」を認めていますので、労働者は、事業者が指定した医師による健康診断の受診を希望しない場合は、別の医師による健康診断を受けて、その結果を事業者に提出しなければなりません。

引用元:厚生労働省

健康診断をやらないとどうなる?

企業が健康診断を行わなかった場合、50万円以下の罰金刑が科されます。

(健康診断)

第六十六条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。

第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。

第六十六条第一項から第三項まで

引用元:労働安全衛生法

健康診断の未実施は、労働安全衛生法で義務づけられた健康管理の一環を怠ったことになります。

健康診断は一年に何回義務づけられている?

健康診断の頻度は一年に一回の実施が義務づけられています。

事業者は、常時使用する労働者に対して、1年以内ごとに1回、定期的に医師による健康診断(定期健康診断)を実施する必要があります。

引用元:厚生労働省

特定の業種に該当する場合、6ヶ月に一回の頻度で健康診断の実施が必須です。

事業者は、深夜業などの特定業務に常時従事する労働者に対し、その業務への 配置替えの際及び6ヵ月以内ごとに1 回、定期に実施する必要があります。健康診 断の項目は定期健康診断と同じです。

引用元:厚生労働省

健康診断は拒否できる?

従業員は健康診断を拒否できます。ただし、会社内で懲戒処分の対象になる可能性があります。

労働者に受診義務があります。 労働安全衛生法に規定された健康診断については、労働者は受診義務を負って おり、事業者は、受診命令に従わない労働者に対して懲戒処分をもって対処することもできます。  

引用元:厚生労働省

企業と従業員双方にとって健康診断は法的な義務であり、健康管理の一環として重要な役割を果たしています。従業員は健康診断の重要性を理解し、積極的な受診が求められます。

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まとめ:健康診断の実施は企業の義務であることを覚えておこう

健康診断 義務 まとめ

健康診断の実施は、労働安全衛生法に基づき、企業に課されている義務です。事業規模に関係なく、すべての企業が実施義務の対象になります。

健康診断を実施しなかった場合、労働安全衛生法第120条により50万円以下の罰金科されることを理解しましょう。

企業に義務づけられている健康診断の種類を、もう一度以下で確認してください。

一般健康診断は一年に一回、特殊健康診断は6ヶ月に一回の実施が必須です。また、実施後には健康診断結果の保管義務や健康診断結果の報告義務も課されています。

経営者や人事・労務担当者は、企業の健康診断に関する義務を理解して、適切に対応しましょう。