溶接ヒューム業務の対応者は特殊健康診断を受けなければならない?規制や実施の流れを解説

特殊健康診断 溶接ヒューム

2021年の法改正により、溶接ヒュームが特定化学物質に指定され、溶接業務に従事する労働者には特殊健康診断の実施が義務化されました。溶接ヒュームの特殊健康診断における健診項目は以下の通りです。

溶接作業は、多くの業界で欠かせない業務ですが、健康リスクも伴います。特に、金属アーク溶接作業で発生する有害な微粒子「溶接ヒューム」は、労働者の健康に悪影響を与える可能性が高く、法規制が強化されています。

溶接ヒューム業務に対応する作業者は必ず定期的な健康診断を受け、事業者も法令に従って健康管理体制を整えることが不可欠です。

なお、特殊健康診断についてより詳しく知りたい場合は「特殊健康診断とは?」の記事をご覧ください。

この記事では、溶接ヒュームに対する特殊健康診断の必要性や法改正に伴う変化、健診の流れについて詳しく解説します。

最後まで見れば、特殊健康診断の規制や実施の流れが分かり、従業員の安全を確保できるようになるでしょう。

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溶接ヒューム法が改正され特殊健康診断はどう変わったのか?

2021年に施行された法改正により、溶接作業で発生する溶接ヒュームが特定化学物質として追加されました。

これに伴い、健康診断の規定が強化され、従業員が溶接ヒュームに暴露される作業環境下では、事業者に特殊健康診断の実施が義務付けられることになりました。

溶接ヒュームに含まれる化学物質について労働者への健康障害のリスクが高いと認められたことから、粉じん対策に加え、特定化学物質に追加し、ばく露防止措置などの必要な対策を講じていただくために、政令と厚生労働省令の改正を行いました。

これにより、特定化学物質等作業主任者の選任や特殊健康診断及び作業環境測定の実施の実施が義務付けられることとなりました。

引用元:厚生労働省

法改正により、健康管理の強化が求められるようになり、企業は定期的な健康診断や作業環境の改善に一層の注力をする必要があります。

ここでは、法改正による健康診断の内容や実施方法の変更点を詳しく見ていきます。

溶接ヒュームが特定化学物質に追加された背景

溶接ヒュームが特定化学物質に指定された背景には、以下の理由があります。

  • 健康リスクの増大
    溶接ヒュームには、六価クロムやニッケルなどの発がん性物質を含むことが判明し、労働者の健康に重大な影響を与える可能性があることが明らかになった。
  • 国際的な認識
    世界各国でも溶接ヒュームの有害性が認識され、労働環境の改善が求められており、日本でも追随する形で規制が強化された。
  • 長期的な健康被害の抑制
    溶接作業を長期間続けることで、慢性疾患や神経系への影響が懸念され、早期の予防と健康管理が急務とされている。

溶接ヒュームは、金属アーク溶接などの作業で発生する煙状の微粒子です。多くの場合、金属成分や有害物質を含んでおり、長期間にわたって吸入すると深刻な健康問題を引き起こします。

そのため、2021年に溶接ヒュームが特定化学物質として規制対象に追加されました。この背景には、溶接作業者の健康リスクが国際的にも注目されるようになったことがあります。

法改正による健康診断への影響

法改正により、溶接ヒュームの暴露が認められる作業従事者には、特殊健康診断が義務付けられるようになりました。従来の健康診断に加え、特定化学物質に対応した呼吸器系や神経系の精密な検査が追加され、通常6ヶ月に1回実施する必要があります。

検査結果の保存期間が設定され、事業者には長期的な管理が求められるようになり、従業員の健康管理体制が大幅に強化されました。

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溶接作業における主な健康障害とは?

溶接作業における主な健康障害は以下の3つです。

溶接ヒュームに含まれる有害物質に暴露されると、さまざまな健康障害が引き起こされる可能性があります。特に、長期間にわたって作業に従事する場合、重大な健康問題を引き起こすリスクが高まります。


ここでは、溶接ヒュームによって引き起こされる代表的な健康障害について詳しく解説します。

最後まで見れば、溶接ヒュームによって引き起こされる健康リスクの実態が分かり、労働環境の改善や健康管理の重要性を理解できるでしょう。

発がん性


溶接ヒュームには、六価クロムやニッケルなどの有害金属が含まれ、長期的に吸入することで肺がんなどのリスクが高まることが報告されています。

特にステンレス鋼などを溶接する際に生成される六価クロムやニッケル化合物は、発がん性が高いため注意が必要です。

溶接作業者は、溶接ヒュームに含まれる物質に長期間さらされることで、肺がんや鼻腔がんなどのリスクが増加します。

また、国際がん研究機関(IARC)でも溶接ヒュームを「ヒトに対して発がん性がある」と分類しており、保護具の着用や定期的な健康診断が欠かせません。

溶接ヒュームとは、溶接等により生じた蒸気が空気中で凝固したもので、粒径がわずか0.1~1μm程度の微小な粒子状の物質であり、人が鼻腔や口から吸入した場合、肺の奥深くにある肺胞まで到達することが指摘されています。国際がん研究機関は、溶接ヒュームの肺がんのリスクについて「ヒトに対する発がん性」を認めたグループ1に分類しました

引用元:労働者健康安全機構

神経機能障害


溶接ヒュームに含まれるマンガンなどの金属が、神経機能に障害を引き起こすことが知られています。マンガン中毒は、運動能力や認知機能に影響を与え、深刻な症状を伴う場合があります。

長期間にわたって高濃度のマンガンを吸入すると、パーキンソン病に類似した症状(手足の震えや筋肉の硬直)が現れることがあります。これを「マンガニズム」と呼び、作業者の生活の質に深刻な影響を与える可能性があります。

溶接ヒュームに含まれるマンガンについても、感覚障害や著しい疲労感、不眠等の神経機能障害が指摘されています。

引用元:労働者健康安全機構

神経機能の低下は初期症状が軽いため、定期的な検診で早期発見が重要です。

呼吸器系障害

溶接ヒュームの吸入により、呼吸器系疾患も懸念されます。溶接ヒュームに含まれる微粒子は、肺に深く侵入し、慢性気管支炎や塵肺(じんはい)などの呼吸器系障害を引き起こすことがあります。

ヒューム粒子が細かいため、長期的に吸入することで肺の組織に損傷を与え、呼吸困難や咳などの症状が悪化します。作業者が慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息などの呼吸器疾患が悪化する恐れがあるため、早期診断と予防が重要です。

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溶接ヒュームの各健診ごとの健診項目を解説

溶接ヒュームの各健診ごとの健診項目は以下健2つです。

定期的に健康診断を受けないと、健康被害のリスクがあります。溶接ヒュームに長期間さらされている場合、早期発見が難しく、症状が進行してしまう可能性があります。

ここでは、溶接ヒュームの各検診ごとの検査項目について詳しく解説します。最後まで見れば、溶接ヒュームの検診の重要性が分かり、自身の健康を守るための具体的な対策が見えてくるでしょう。

1次検診

溶接ヒュームの1次検診は、金属アーク溶接等作業に常時従事する労働者に対し、雇入れまたは当該業務への配置換えの際およびその後6月以内ごとに1回実施されます。具体的な検診項目は以下の通りです。

  • 業務の経歴の調査
  • 作業条件の簡易な調査
  • 溶接ヒュームによるせき等パーキンソン症候群様症状の既往歴の有無の検査
  • せき等のパーキンソン症候群様症状の有無の検査
  • 握力の測定

引用元:厚生労働省

作業者が溶接ヒュームにどれだけ曝露されているかを評価し、さらなる検査が必要かどうかを判断します。1次検診で異常が発見されなければ、次回の定期健診まで問題がないと判断されます。

2次健診


溶接ヒュームの一次検診の結果、医師が必要と判断した場合、他覚的な症状が認められる者には、規定の事項に基づき二次検診を実施します。

2次検診では、より精密な検査が行われ、特に異常が見つかった部位に重点を置いて診断が行われます。2次健診の内容は以下の通りです。

  • 作業条件の調査
  • 呼吸器に係る他覚症状等がある場合における胸部理学的検査等
  • パーキンソン症候群様症状に関する神経学的検査
  • 医師が必要と認める場合における尿中等のマンガンの量の測定

引用元:厚生労働省

具体的な項目には、胸部理学的検査や尿中マンガン測定、神経学的検査が含まれ、パーキンソン症候群の症状がないかを詳しく調べます。

なお、1次検診・2次健診の他、じん肺法に基づく「じん肺健康診断」も義務付けられています。じん肺は粉塵を長期間吸入することで発症する可能性があるため、早期発見と対策が肝心です。

金属アーク溶接等作業に常時従事する労働者に対しては、作業場所が屋内・屋外であるかにかかわらず、じん肺健診に加え、特化則に基づき、医師による特殊健康診断を行うことが義務付けられます。

引用元:厚生労働省

医師の診断に基づき、必要な治療や作業環境の改善が指示され、作業者の健康管理が強化されます。

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溶接ヒュームの健康診断(特定化学物質健康診断)を実施する上での注意点


溶接ヒュームの健康診断を実施する上での注意点は以下の4つです。


溶接ヒュームに関する健康診断は、定期的に行われるだけでなく、事業者にとっては適切な記録管理や健診結果の保存も重要です。

また、健診の実施スケジュールやフォローアップの方法にも厳格なルールが存在します。

最後まで見れば、健康診断の記録管理の重要性や遵守すべきルールが分かり、事業者としての法令対応や従業員の健康管理が徹底できるようになるでしょう。

5年間の保存が必要

溶接ヒュームに関する健康診断の結果は、少なくとも5年間保存することが法令で定められています。健康診断結果の保存は、従業員が将来的に健康被害を受けた際、結果を遡って確認するために重要です。

診断結果の管理や保存には記録システムを導入し、容易にアクセスできる状態を保つことが求められます。

なお、健診結果の保存や管理には一定の費用が発生するため、事業者はこの点を考慮した上で予算を確保し、長期的な対応策を講じる必要があります。特に多数の従業員を抱える事業所では、記録管理の負担が大きくなるため、適切な体制を整えることが重要です。

詳細は「健康診断結果の保存期間」の記事で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。

常時従事する労働者に対して6月以内ごとに1回実施する必要がある

法令では、常時溶接作業に従事する労働者に対して、6ヶ月に1回の定期的な健康診断を実施する必要があります。

6ヶ月に1回の定期健診は、作業者の健康状態を継続的に把握し、健康障害の早期発見・予防を目的としています。

溶接作業は、長期間にわたり健康リスクが積み重なるため、定期的な診断を怠らないことが重要です。事業者は、適切なタイミングで健康診断を実施し、従業員の健康を守る責任を負います。

定期的な健康診断により、長期間にわたる健康管理が求められています。

医師が必要と認めるものに対して2次検診を受ける必要がある

1次検診の結果に異常が認められた場合、医師が必要と判断した従業員に対しては、2次検診を実施する必要があります。

2次検診では、より詳細な検査が行われ、健康障害の進行度や具体的な原因を特定するために精密な診断が求められます。2次検診は、早期の適切な対応を行うために重要です。

事業者は、医師の判断に基づき、必要な検査や治療が受けられる環境を整備し、従業員の健康を守る体制を維持する必要があります。

2次検診を実施することにより、さらなる健康被害の進行を防ぎます。

そのほか注意点

新たな化学物質が使用される作業環境では、リスク評価が重要です。溶接ヒュームに関する健康診断の実施に際しては、十分な診断項目を選定することや、診断結果を元にした作業環境の改善が求められます。

例えば、診断結果に基づいて作業者に適切な防護具を着用させたり、換気システムの強化を図ったりするなどの対策が必要です。

また、事業者は従業員が検診を受けやすい環境を整え、従業員自身が健康リスクを理解し、自主的に健康診断を受ける姿勢を育むことも重要です。定期的なリスクアセスメントを行い、従業員が安全な環境で作業できるようにしましょう。

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金属アーク溶接等作業を行う事業者の責任

溶接ヒュームに関する法規制が強化されたことに伴い、事業者には従業員の健康管理に関する責任が一層求められています。法令を遵守した健康診断の実施はもちろん、継続的な安全対策の導入も含まれます。

ここでは、事業者が負うべき責任について詳しく解説します。

法令遵守の重要性

事業者は、溶接ヒュームに関連する法令を遵守し、定期的な健康診断や作業環境の改善を実施する責任があります。

特殊健康診断の実施やその結果の保存に関しては、法律で定められた要件を満たすよう、適切な対応を行うことが求められます。法令違反は、事業停止や罰金といった厳しい制裁を受ける可能性があるため、特に注意が必要です。

継続的な健康管理体制の構築

労働者の健康を守るためには、継続的な健康管理体制の構築が不可欠です。定期的な健康診断の実施だけでなく、診断結果に基づいた作業環境の改善や、必要に応じたフォローアップ体制の整備が含まれます。

健康管理を通じて、従業員の健康を長期的に守ることが可能です。

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金属アーク溶接等作業を行う場合は特殊健康診断を受けよう!

特定化学物質としての溶接ヒュームに対する法規制が強化された今、事業者は従業員の健康を守るため、定期的な特殊健康診断を実施し、対策を講じる必要があります。溶接ヒュームの特殊健康診断における健診項目は以下の通りです。

溶接業務に従事する方は、法に基づいた健診を受けることで、自身の健康状態を把握し、作業環境による健康リスクを軽減できます。

健康診断を定期的に受け、体の異常を早期に発見することで、作業効率の向上にもつながるでしょう。