雇入れ時健康診断の実施時期は以下の通りです。
- 雇い入れ前の場合 ⇒ 3ヵ月以内
- 雇い入れ後の場合 ⇒ 配属先を決める前
雇入れ時健康診断は「いつまでに実施する」と法律に明記されていません。しかし、法律の解釈によって、上記の期間での実施が求められています。
雇入れ時健康診断の実施を怠った企業は、50万円以下の罰則を科される可能性があります。過去には、雇入れ時健康診断を怠った企業の代表者が、書類送検された事例もあるため注意が必要です。
経営者・人事担当者は、雇入れ時健康診断を適切な時期に実施しましょう。
当記事では、以下のことがわかります。
最後まで読めば、法令を遵守しながら従業員の健康管理がしっかりと行えるようになり、企業の信頼性向上につながるでしょう。
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【健康診断結果の一元管理マニュアル】
雇入れ時健康診断をいつまでに行うかは、法律で明確に示されていません。
ただし、雇入れ時健康診断について明記している労働安全衛生規則の内容を読み解くと、雇入れ時健康診断の実施期限は以下になると考えられます。
- 雇い入れ前の場合 ⇒ 3ヵ月以内
- 雇い入れ後の場合 ⇒ 配属先を決める前
労働安全衛生規則では、従業員が3ヵ月以内の健康診断結果を提出できる場合、雇入れ時健康診断は省略可能と明記されています。つまり、雇い入れ前に健康診断を行うときは、入社前の3ヵ月以内に実施すると解釈できます。
(雇入時の健康診断)
第四十三条 事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。
引用元:労働安全衛生規則
雇入れ時健康診断を実施する目的は、従業員を適正な部署に配置したり、入職後の健康管理に役立てたりするためです。そのため、雇い入れ後に雇入れ時健康診断を行うときは、配属先が決まるまでの実施が望ましいといえるでしょう。
この「雇い入れ時の健康診断」は常時使用する労働者を雇い入れた際における適正配置、入職後健康管理に役立てるために実施するものであって、採用選考時に実施することを義務づけたものではなく、また、応募者の採否を決定するために実施するものではありません。
引用元:大阪労働局
雇入れ時健康診断の結果は従業員の健康管理の基礎資料となるため、タイミングを逃さず実施しましょう。
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【健康診断結果の一元管理マニュアル】
雇入れ時健康診断は、全従業員が対象にはなりません。以下の条件に該当する、常時使用する労働者に対して実施します。
- 無期契約労働者
- 契約期間が1年以上の有期契約労働者(契約更新で1年以上になる見込みの人を含む)
- 週の労働時間が正社員の3/4以上になる人
パート労働者にも健康診断が必要? ~ 常時使用する労働者とは ~
パート、アルバイト等の雇用形態にかかわらず、下記①・②の両方を満たす場合には健康診断の実施が必要です。
① 1年以上の長さで雇用契約をしているか、または、雇用期間を全く定めていないか、 あるいは既に1年以上引き続いて雇用した実績があること。
② 一週間あたりの労働時間数が通常の労働者の4分の3以上であること。
※ 上記の②にあたらない場合でも、①に該当し、同種の業務に従事する労働者の一週間の所定労働時間の概ね 2 分の 1 以上の労働時間数を有する者に対しても、健康診断を実施することが望ましいとされています。
引用元:愛知労働局
雇用形態がパート・アルバイト・契約社員だとしても、企業は上記の条件に当てはまる従業員へ、雇入れ時健康診断を実施する義務があります。
派遣労働者の場合は、派遣元の事業場で健康診断を実施するため、通常は派遣先の企業では行いません。各従業員の健康診断に関しては、以下の記事で詳しく解説しているのでご覧ください。
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【健康診断結果の一元管理マニュアル】
雇入れ時健康診断の企業が知っておくべき注意点は以下の3つです。
雇入れ時健康診断を実施する際、経営者・人事担当者は注意点を押さえておく必要があります。ここでは、雇入れ時健康診断について、企業が知っておくべき注意点を詳しく解説します。
最後まで見れば、雇入れ時健康診断に関する重要な注意点がわかり、適切な対応が取れるようになるでしょう。
健康診断結果で採用の可否を決定してはいけない
企業が健康診断結果を基に採用の可否を決定することは、厚生労働省により適切ではないとされています。
同規則は採用選考時の健康診断について規定したものではなく、また、「雇入時の健康診断は、常時使用する労働者を雇入れた際における適正配置、入職後の健康管理に資するための健康診断であることから、採用選考時に同規則を根拠として採用可否決定のための健康診断を実施することは適切さを欠くものである。
引用元:労働省職業安定局
雇入れ時健康診断の目的は、新たに雇い入れた労働者の適正な配置や、入職後の健康管理に役立てることです。そのため、雇入れ時健康診断を採用選考の判断材料として使用すると、就職差別につながる恐れがあります。
経営者・人事担当者は、健康診断結果を慎重に取り扱い、採用可否の判断基準にはしないよう注意しましょう。
雇入れ時健康診断の結果として、異常や疾患が見つかった場合は、産業医へ相談するなど、適正配置や適切な健康管理が求められます。
健康診断の費用+受診時の賃金は企業が負担する
雇入れ時健康診断の実施は、企業に課された義務のため、費用は企業が負担します。また、健康診断を受ける時間の賃金も、可能な限り支給対応が望ましいでしょう。
厚生労働省は「円滑な受診を考えたとき、受診に要した時間の賃金を支払うことが望ましい」と発表しています。
円滑な受診を考えれば、受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいでしょう。特殊健康診断は業務の遂行に関して、労働者の健康確保のため当然に実施しなければならない健康診断ですので、特殊健康診断の受診に要した時間は労働時間であり、賃金の支払いが必要です。
引用元:厚生労働省
受診時間の賃金支給は、従業員の安心と満足度を高める重要なポイントです。
なお、健康診断費用ついては「健康診断の相場とコスト削減のコツ」の記事で詳しく解説しているのでご覧ください。
健康診断結果は5年間の保存義務がある
企業には、労働安全衛生法により、労働者の健康診断結果を5年間保存する義務があります。保存義務は、労働者の健康状態の変化を追跡し、適切な対策を講じるために必要な措置です。
(記録の保存)第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
引用元:労働基準法
健康診断結果の適切な保存によって、将来的な健康管理に役立ちます。また、職場での健康問題が発生した際には、過去のデータを参照して迅速に対応することが可能です。
ただし、特殊健康診断の場合は最大40年の保存が求められるケースもあります。健康診断結果は、労働者が担う業務内容によって長期間保存する必要があるので注意しましょう。
保存期間に関しては「健康診断結果の保存期間」の記事で詳しく解説しているのでご覧ください。
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【健康診断結果の一元管理マニュアル】
スムーズに雇入れ時健康診断を実施するためのポイントは以下の3つです。
雇入れ時健康診断を円滑に実施するためには、事前準備が重要です。ここでは、雇入れ時健康診断を実施するときのポイントを詳しく解説します。
最後まで見れば、雇入れ時健康診断をスムーズに実施する方法がわかり、従業員の健康管理が確実に行えるようになるでしょう。
雇用者に事前説明を行う
雇入れ時健康診断をスムーズに実施するためには、雇用者への事前説明が不可欠です。
新規の従業員にとって、健康診断はプライバシーに関わる問題であり、不安や疑問を抱くことが少なくありません。そのため、以下の点を雇用者に伝えてください。
- 企業の義務として健康診断を実施
- 労働者の安全を守るための重要性
- 採用や評価には一切関係がない
事前説明によって、従業員が健康診断の目的を理解し、積極的に受診してもらえます。
医療機関の予約・雇用者への通知を早めに行う
雇入れ時健康診断では、医療機関の予約と雇用者への通知を早めに行うことが重要です。
医療機関が混雑していると予約が取りにくく、受診から結果までに1ヵ月近くかかる場合もあります。
特に個別受診の場合は、早めの通知が欠かせません。予約が取れないケースや対象者がすぐに行動しない場合を考慮し、計画的に進めることが求められます。
また、全員の診断結果が揃うまでの時間も考えて、余裕を持ったスケジュールを立てましょう。従業員の雇用前後は企業側の業務が多くなるため、早めの行動を心がけることで、スムーズな健康診断の実施が可能になります。
就業規則に明記する
雇入れ時健康診断の受診漏れを防ぐためには、就業規則への明記が有効です。健康診断は法令で定められた企業の義務であり、従業員にも理解と協力が求められます。
就業規則に「未受診者への懲戒処分」を規定すると、受診の徹底を促せます。
また、健康診断の重要性や目的を従業員に理解してもらうために、事前の丁寧な説明も大切です。就業規則への明記+事前説明によって、従業員が自主的に雇入れ時健康診断を受診するようになるでしょう。
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【健康診断結果の一元管理マニュアル】
雇入れ時健康診断を怠った場合、企業は50万円以下の罰金刑を科される場合があります。
【罰 則】 50万円以下の罰金(労働安全衛生法第120条)
引用元:厚生労働省
雇入れ時健康診断の実施は、法律により、企業に課せられている義務です。そのため、雇入れ時健康診断を怠った企業は、是正勧告の対象となる可能性があります。
過去には、雇入れ時健康診断を怠った企業の代表者が書類送検された事例もあります。以下は、従業員が熱中症により死亡したことで調査が入り、雇入れ時健康診断を実施していないことが判明した事例です。
愛知労働局(藤澤勝博局長)は、入社時の健康診断を怠ったとして、警備業のセキュリティスタッフ㈱(愛知県名古屋市)と同社代表取締役を労働安全衛生法第66条(健康診断)違反の疑いで名古屋地検に書類送検した。
同社の従業員が昨年8月に熱中症で死亡した件を同労働局が調べた際、雇い入れ時の健康診断を会社が受診させていないことが発覚した。
引用元:労働新聞社
雇入れ時健康診断の重要性を理解していない企業は、社会的な信頼を損なう恐れがあります。また、労働環境の質が低下するリスクも高まるでしょう。
法律と従業員の健康を守るためにも、雇入れ時健康診断は適切な時期の実施が重要です。
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【健康診断結果の一元管理マニュアル】
雇入れ時健康診断とは、新しく従業員を雇用する際に実施する健康診断です。雇入れ時健康診断は、労働安全衛生規則第43条に基づき、企業に実施が義務づけられています。
雇入れ時健康診断の目的は、常時使用する労働者が健康に働ける状態にあるかを確認することです。適切な職場配置や入職後の健康管理に役立てるための健康診断といえます。
雇入れ時健康診断の検査項目は以下の通りです。
番号 | 検査項目 |
---|---|
一 | 既往歴及び業務歴の調査 |
二 | 自覚症状及び他覚症状の有無の検 |
三 | 身長、体重、腹囲、視力及び聴力(千ヘルツ及び四千ヘルツの音に係る聴力をいう。次条第一項第 三号において同じ。)の検査 |
四 | 胸部エックス線検査 |
五 | 血圧の測定 |
六 | 血色素量及び赤血球数の検査(次条第一項第六号において「貧血検査」という。) |
七 | 血清グルタミックオキサロアセチックトランスアミナーゼ(GOT)、血清グルタミックピルビックト ランスアミナーゼ(GPT)及びガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)の検査(次条第一項第 七号において「肝機能検査」という。) |
八 | 低比重リポ蛋(たん)白コレステロール(LDLコレステロール)、高比重リポ蛋(たん)白コレス トロール(HDLコレステロール)及び血清トリグリセライドの量の検査(次条第一項第八号において 「血中脂質検査」という。) |
九 | 血糖検査 |
十 | 尿中の糖及び蛋(たん)白の有無の検査(次条第一項第十号において「尿検査」という。) |
十一 | 心電図検査 |
引用元:安全衛生情報センター
雇入れ時健康診断は、上記の検査をすべて受ける必要があります。
ただし、入社前3ヵ月以内に同様の健康診断を受けた労働者の場合、検査結果を提出すれば再度受診する必要はありません。
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雇入れ時健康診断をいつまでに行うかに関するよくある質問は以下の5つです。
雇入れ時健康診断は、労働者を雇い入れる際に必ず実施しなければならない法的な義務です。ここでは、よくある5つの質問に答え、企業が適切に対応できるようサポートします。
最後まで見れば、雇入れ時健康診断の正しい実施方法がわかり、法令遵守と従業員の健康管理に役立つ行動が取れるようになるでしょう。
雇用時健診は3か月以内に行う?
雇入れ時健康診断の実施時期は、入社前の3ヵ月以内、または配属先が決定する前が目安とされています。以下の期間を参考に、実施してください。
- 雇い入れ前の場合 ⇒ 3ヵ月以内
- 雇い入れ後の場合 ⇒ 配属先を決める前
3ヵ月以内とされる理由は、雇用者が過去3ヵ月以内に健康診断を受け、結果の書面を提出した場合、雇入れ時健康診断として代替できるからです。
また、雇入れ時健康診断の実施目的が適正な配置と労働環境の整備のため、配属先を決める前の実施も認められています。
雇い入れ時健康診断をやらないとどうなる?
雇入れ時健康診断を怠ると、労働安全衛生法の違反となり、企業は50万円以下の罰金刑を科される可能性があります。
罰金刑が科されるだけでなく、労働基準監督署からの指導や是正勧告を受けることもあります。
雇入れ時健康診断は、労働安全衛生規則に基づき、企業に課されている義務です。そのため、雇入れ時健康診断を実施しない場合、企業は法的なリスクを負うことになります。
雇入れ健診は定期健診で代用できる?
結論として、前職の定期健康診断の結果を代用することは可能です。
ただし、代用できる条件は、雇入れ前の3ヵ月以内の健診結果であることです。また、定期健康診断では省略が可能な項目もありますが、雇入れ時健康診断は全項目の受診が必須です。
不足する項目がある場合は追加で受診し、追加結果を提出してもらう必要があります。
雇い入れ時健康診断は省略できる?
雇入れ時健康診断は省略できません。なぜなら、雇入れ時健康診断の実施は法律により、企業に課されている義務だからです。
労働安全衛生規則に記載されている「一 既往歴及び業務歴の調査」から「十一 心電図検査」まで、すべての検査項目を実施する必要があります。
ただし、雇入れ前の3ヵ月以内に、ほかの医療機関で受診した健康診断結果がある場合、雇入れ時健康診断に代用することは可能です。
雇い入れ時の健康診断は自腹?
雇入れ時の健康診断の費用を、労働者が自腹で支払うことはありません。雇入れ時の健康診断の費用は、原則として、企業の全額負担が義務づけられています。
労働安全衛生法等で事業者に義務付けられている健康診断の費用は、法により、事業者に健康診断の実施が義務付けられている以上、当然に事業者が負担すべきものとされています。
引用元:厚生労働省
企業は労働者に対して、雇入れ時健康診断の費用を請求したり負担させたりしないように気をつけましょう。
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【健康診断結果の一元管理マニュアル】
雇入れ時健康診断は、基本的に、雇用前の3ヵ月以内の実施が推奨されています。また、遅くても配属先が決まる前には、検査結果がわかる状態にしておきましょう。
雇入れ時健康診断の企業が知っておくべき注意点を、以下でもう一度確認してください。
健康診断を怠ると、法令違反となり、50万円以下の罰則が科せられる可能性もあるため注意が必要です。
経営者・人事担当者は、雇入れ時健康診断を適切な時期に実施し、法令遵守しながら従業員の健康を管理してください。