振動工具を使用する労働者には、特殊健康診断が必要です。振動工具による健康への影響は、手や腕に過度な振動が伝わり、血管障害や末梢神経障害(振動障害)などを引き起こす可能性があるためです。
労働安全衛生法に基づき、特定の条件を満たす労働者は定期的に特殊健康診断を受ける必要があります。
なお、特殊健康診断については「特殊健康診断とは?」の記事で詳しく解説しているため、参考にしてください。
この記事では、振動工具を使用する特殊健康診断の対象者、健康診断の項目、注意点について詳しく解説します。
最後まで見れば、労働者の健康を守るために必要な診断のポイントや実施方法が分かり、健康管理体制を整えられるでしょう。
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【特殊健康診断の基礎ガイドマニュアル】
振動工具を使用する業務では、特定の健康リスクが伴うため、「振動工具(チエンソー等を除く。)の取扱い等の業務に係る特殊健康診断」が必要です。
手持ち振動工具を使用する作業は、体に直接振動が伝わるため、振動障害や血管・神経に対する影響が懸念されます。特に、手や腕が主に影響を受けやすく、感覚の鈍化や痛み、手の血行障害などの症状が現れることがあります。
振動業務従事者は、定期的に特殊健康診断を受け、振動による手指の血流障害や神経障害のリスクを早期に発見し、予防対策を講じることが重要です。
振動業務に特殊健康診断が必要となった背景
振動業務に特殊健康診断が必要となった背景には、振動障害のリスクが大きく影響しています。
振動障害とは、手や腕に長時間の振動が加わることにより、血流や神経に障害が生じる症状を指します。特に「白ろう病」と呼ばれる手指の血流障害が代表的な症状で、冷えやしびれ、感覚の鈍化が引き起こされます。
振動業務による健康リスクを防ぐために、振動工具を扱う労働者には定期的な特殊健康診断の実施が求められるようになりました。
振動工具を使用する労働者に対して、振動障害予防のための特殊健康診断を定期的に行い、その結果に基づく就業上の措置を行わなければなりません。
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【特殊健康診断の基礎ガイドマニュアル】
振動工具の特殊健康診断(振動業務健康診断)は、主に「手持ち振動工具を用いる業務」など、長時間の振動ばく露を受ける労働者が対象です。
特定の振動ばく露時間を超える作業を行う従業員には、6か月以内または1年以内ごとに1回の頻度で特殊健康診断の実施が義務付けられています。
対象者(次の振動工具を使用する労働者) | 実施時期 |
---|---|
① レッグ式さく岩機、チッピングハンマー、リベッティングハンマー、コーキングハンマー、ピックハンマー、 ハンドハンマー、ベビーハンマー、コンクリートブレーカー、スケーリングハンマー、サンドランマ等の工 具を取り扱う業務 ② チェーンソー、ブッシュクリーナーおよびアースオーガー | ・雇入れ時 ・当該業務への配置替え時 ・6か月以内ごとに1回 (1回は冬期) |
① エンジンカッター等の内燃機関を内蔵する工具(チェーンソー、ブッシュクリーナーおよびアースオーガー を除く)を取り扱う業務 ② 携帯用タイタンパーおよび皮はぎ機を取り扱う業務 ③ 携帯用研削盤、スイング研削盤、その他手で保持し、または支えて操作する型式の研削盤(使用する研削といしの直径(製造時におけるものをいう。以下同じ。) が150㎜を超えるものに限る。)を用いて金属、または石材等を研削し、または切断する業務 ④ 卓上用研削盤または床上用研削盤(使用する研削といしの直径が150㎜を超えるものに限る。)を用いて鋳物のばり取りまたは溶接部のはつりをする業務 | ・雇入れ時 ・当該業務への配置替え時 ・1年以内ごとに1回 (冬期) |
引用元:一般財団法人 全日本労働福祉協会
現在使用されている振動工具以外にも、新たなタイプの工具が登場しており、それらの工具による振動ばく露にも留意する必要があります。
最新の工具も含め、労働者が使用するすべての振動工具に対して健康管理や診断を徹底することが求められています。
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【特殊健康診断の基礎ガイドマニュアル】
振動業務健康診断の検査項目は、以下の2つです。
振動業務健康診断の検査項目は、労働者が振動障害に陥るリスクを早期に把握するために実施されます。振動業務健康診断は、手足のしびれや血流不全など、振動工具の長期使用による健康被害を防止するために重要です。
1次健診
振動業務健康診断の1次健診項目は以下の通りです。
区分 | 健康診断項目 |
---|---|
第一次健康診断 | 〇 職歴調査:経験年数、使用工具の種類、作業状況など 〇 自覚症状調査:既往歴、現病歴などの問診 〇 視診、触診:爪の変化、指の変形、皮膚の異常、骨・関節の変形・異常、上肢の運動機能の異常および運動痛、腱反射の異常、筋萎縮、筋・神経そうの圧痛、触覚の異常などの有無 〇 運動機能検査 (1) 握力(最大握力、瞬発握力) (2) 維持握力(5回法) 〇 血圧、最高血圧および最低血圧 〇 末梢循環機能検査 室温20℃~23℃位の室で30分以上安静にさせた後行うこと (1) 手指の皮膚温(常温下) (2) 爪圧迫(常温下) 〇 末梢神経機能検査(感覚検査) (1) 痛覚(常温下) (2) 指先の振動覚(常温下) 〇 手関節および肘関節のエックス線検査(チェーンソー等以外の振 動工具取り扱い業務従事者に対し雇入れの際または当該業務への配 置替えの際に限る。) |
引用元:一般財団法人 全日本労働福祉協会
1次健診は、振動業務に従事する労働者に対して行われる初期段階の健康診断です。
具体的な検査内容には、既往歴の確認、業務歴の調査、四肢末梢血管の状態をチェックする診察が含まれます。また、末梢神経系や筋骨格系の状態を調べ、振動工具の長期使用による健康リスクを評価します。
1次健診により、振動障害などの早期発見が可能となり、労働者の健康管理に役立ちます。
2次健診
振動業務健康診断の2次健診項目は以下の通りです。
2次健診
- 末梢循環機能検査:常温及び冷却負荷における手指の爪圧迫テスト及び皮膚温
- 末梢神経機能検査:常温及び冷却負荷における手指等の痛覚及び振動覚
- 筋力検査:5回法又は60%法による維持握力 つまみ力
医師が特に必要と認めた方については、次の項目を実施します。
- 末梢循環機能検査:常温又は冷却負荷における指尖容積脈波
- 末梢神経機能検査:常温又は冷却負荷における手指の温痛覚及び冷痛覚
- 筋運動検査:タッピング
- 心電図又は負荷心電図
- 手関節又は肘関節のエックス線検査
2次健診は、1次健診の結果に基づき、医師が必要と判断した場合に行われる検査です。振動ばく露による血行障害の程度や神経障害を確認するための検査が追加され、手指の感覚や血流の異常を詳細に調べます。
2次健診により振動障害の進行具合を確認し、治療や対策が取られるべきかどうか判断します。
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【特殊健康診断の基礎ガイドマニュアル】
振動業務健康診断における健康管理区分・事後措置は、以下の3つです。
振動業務健康診断における健康管理区分と事後措置は、診断結果に基づき、労働者の健康状態に応じた対策を講じるために設けられています。
管理A
振動業務健康診断の「管理A」は、振動業務に従事しても特段の健康リスクが認められない場合に分類されます。
健康診断の結果、振動障害の兆候が見られず、末梢神経や血管に異常がないか、あっても一時的で検査所見もおおむね正常範囲にある場合に、管理Aに入れられます。管理Aの場合は、特に制限を設けることなく通常通りの作業を継続できます。
管理A
問診、視診、触診において振動の影響とみられる自・他覚症状が認められないか、又は、認められても一時的であり、かつ、末梢循環機能検査、末梢神経機能検査及び筋力、筋運動検査等の所見(以下「検査所見」という)もおおむね正常の範囲にあり、振動曝露歴に係る調査結果(以下「調査結果」という)と併せ、総合的にみて振動による障害がほとんどないと認められるもの。
引用元:一般財団法人 全日本労働福祉協会
定期的な健康診断は必要であり、振動工具の使用状況や健康状態を引き続きモニタリングすることが重要です。
管理B
振動業務健康診断の「管理B」は、軽度の異常が認められたものの、作業自体は継続可能な場合に該当します。例えば、振動による血流の一時的な低下や、軽微な末梢神経障害が認められるが療養を要する程度ではないと確認された際に分類されます。
管理B
①問診、視診、触診において振動の影響とみられる各種の自・他覚症状が認められ、かつ、第一次健康診断及び第二次健康診断の検査所見において正常の範囲を明らかにこえ又は下廻るものがいくつか認められ、調査結果と併せ総合的にみて振動による障害を受け又はその疑いがあると認められるが療養を要する程度ではないと認められるもの。
②管理Cに該当していたが、その後軽快して療養を必要としなくなったと認められるもの。
引用元:一般財団法人 全日本労働福祉協会
過度な負担を避けるため、振動工具の使用時間や作業環境の改善が必要です。振動によって受けた影響及び使用する振動工具の振動の程度に応じて、作業時間を少なくすることにより振動業務に従事して差し支えありません。
進行が見られる場合には、振動工具の取り扱いを一時中止して健康診断を受けることが必要です。
管理C
振動業務健康診断の「管理C」は、振動障害が顕著に見られ、作業の継続が困難な場合に分類されます。管理Cに入ると、振動工具の使用を中止し、速やかな治療や専門医の診察が推奨されます。
末梢神経や血管への深刻な影響があるため、今後の作業環境を大幅に見直し、作業からの離脱も検討されます。
管理C
振動による影響と見られるレイノー現象、しびれ、痛み、こわばり、その他の自・他覚症状があり、かつ、問診、視診、触診の所見及び検査所見並びに調査結果と併せて総合的にみて振動による障害が明らかであって、療養を必要とすると認められるもの。
注1 管理区分 C の判断に当たっては、振動障害の業務上外の認定基準(昭和50.9.22 基発第501号)を参考にすること。
引用元:一般財団法人 全日本労働福祉協会
復職後も慎重な健康管理が必要です。
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【特殊健康診断の基礎ガイドマニュアル】
振動業務健康診断を実施する上で知っておくべき注意点は、以下の5つです。
振動業務健康診断を実施する際には、重要な注意点があります。対象となる労働者の正確な特定が必要で、振動工具の使用頻度や作業時間に応じて検査を実施することが求められます。
診断結果に基づく事後措置として、必要に応じて作業の軽減や療養を指示することも重要です。
最後まで見れば、振動業務健康診断の重要性と対応方法がわかり、定期的な診断の実施や事後措置の対応ができるでしょう。
6ヶ月以内または1年以内ごとに1回の実施が必要
振動業務に従事する労働者に対しては、振動工具による健康リスクを減らすため、6ヶ月以内または1年以内ごとに1回の特殊健康診断を実施することが法的に義務付けられています。
定期的な健康診断は労働者の健康を定期的に監視し、振動による健康リスクを早期に発見・対処するためのものです。
振動工具の長時間使用は手指や腕の血行不良や神経障害を引き起こす可能性があり、定期的な健康診断が健康リスクを低減します。
事業者は定期的に健康診断を実施し、労働者の健康を守る責任があります。
医師が必要と認めた場合は2次健診を受けなければならない
1次健診の結果、医師が振動工具による健康被害のリスクが高いと判断した場合、2次健診が実施されます。
2次健診では、手指や腕の血行状態や神経機能をさらに詳しく調べ、必要に応じて治療や業務内容の改善が行われます。
振動による健康障害は長期的な影響を及ぼすことがあるため、事業者は2次健診を確実に実施し、初期段階で対応することが労働者の健康維持にとって重要です。
振動ばく露時間の把握・管理を徹底する
振動業務における健康被害を防ぐためには、労働者が振動工具にばく露される時間を管理することが重要です。ばく露時間の管理により、労働者が長時間振動にさらされることを防ぎ、手指や腕の健康を守れます。
作業管理と健康管理
周波数補正振動加速度実効値の3軸合成値を測定、使用する工具の表示、取扱説明書、メーカーのホームページなどから把握し、日振動ばく露量A(8)が高くならないよう、振動ばく露時間を管理する必要があります。なお、日振動ばく露量A(8)は、「日振動ばく露量A(8)の計算テーブル(Excel)」を使用して求めることができます。
引用元:厚生労働省
振動ばく露の累積量が増加しないよう、作業スケジュールの見直しや休憩の確保を行うことが、健康リスクを低減します。過剰なばく露を避けるためには、ばく露時間の記録を正確に行い、必要に応じて改善措置を講じることが必要です。
振動工具は定期的に点検整備を行う
健康被害を防ぐには、振動工具の定期的な点検と整備が不可欠です。定期的な点検整備を通じて、正常な状態で使用できるようにすることで、労働者への影響を軽減し、安全な作業環境を確保できます。
振動工具の選定基準と点検整備
使用する振動工具は、振動や騒音が出来る限り少なく軽量なものを選び、取扱説明書で示した時期及び方法により、定期的に点検・整備し、常に最良の状態に保つ必要があります。また、「振動工具管理責任者」を選任し、点検・整備状況を定期的に確認し、その状況を記録する必要があります。
引用元:厚生労働省
工具の摩耗や故障が発生すると、振動レベルが増加し、労働者の健康リスクが高まります。振動工具の定期的な点検と整備は、振動レベルを正常に保ち、振動ばく露による健康被害を抑制します。
振動業務健康診断の個人票は5年間の保存義務がある
振動業務健康診断の結果は、個人票として5年間保存することが法律で義務付けられています。振動業務健康診断の記録は、労働者の健康状態の変化を追跡し、必要に応じた健康管理を行うために重要です。
個人票の保存により、過去の健診結果と現在の健康状態を比較し、振動による健康リスクの早期発見や労働者の健康管理を継続的に行えます。
事業者は振動業務健康診断の保存義務を確実に履行し、健診結果を管理する責任があります。詳細は「健康診断結果の保存期間」の記事をご覧ください。
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【特殊健康診断の基礎ガイドマニュアル】
振動工具の特殊健康診断に関するよくある質問は以下の4つです。
振動工具を使用する労働者にとって、特殊健康診断は健康を守るための重要な手段です。しかし、多くの方が特殊健康診断についての理解が不足しているため、様々な疑問が生じています。
最後まで見れば、振動業務健康診断の重要性が分かり、安心して業務にあたれるでしょう。
振動業務とは?
振動業務とは、ハンマードリルやグラインダーなどの手持ちの振動工具を用いた作業を指します。
振動が体内に伝わることで、振動病と呼ばれる障害が引き起こされる可能性があるため、特に注意が必要です。
振動による健康リスクを軽減するため、定期的な健康管理が求められます。対策を講じることで、振動に起因する健康被害を防げます。
振動病の診断基準は?
振動病の判断基準には、症状の出現状況、持続期間、振動曝露の程度、医療機関での診断結果が含まれます。
振動病は、長期間にわたる振動への曝露によって発生する障害です。
専門的な評価を受けることで、正確な判断が可能となり、神経学的な検査や血液検査が行われることがあります。振動病の早期発見は、治療やリハビリの効果を高めるため、定期的な健康診断の受診が推奨されます。
振動工具の作業時間制限は?
振動工具を使用する際の作業時間制限は、1日2時間以内が推奨されています。
作業の合間に休憩を取り、手や腕を休めることも重要です。労働環境の改善と作業管理により、振動による健康リスクを軽減できます。
振動障害の治し方は?
振動障害の治療方法は、症状の程度や発症状況によって異なります。一般的には振動の曝露を避けることが基本です。その後、物理療法やリハビリテーションを通じて、症状の緩和を図ります。
必要に応じて、薬物療法が行われることもあります。また、専門医による定期的なフォローアップが必要で、生活習慣の見直しやストレッチなどの実施が推奨されます。早期の対策が、症状の改善につながります。
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【特殊健康診断の基礎ガイドマニュアル】
手持ち振動工具を使用する労働者に対しては、健康を守るために特殊健康診断が義務付けられています。
労働者自身の健康管理に加え、事業者は振動工具の定期的な点検・整備や、健康診断結果の保存も必要です。
振動工具の使用は、振動障害のリスクを高めるため、定期的な健康チェックが必要とされます。特に、振動の影響を受けやすい部位に注意し、初期段階での健康問題を早期に発見することが労働者の安全を守ることにつながります。